2019.04.20

【受贈】『中世荘園村落の環境歴史学』

海老澤衷編『中世荘園村落の環境歴史学―東大寺領美濃国大井荘の研究』(吉川弘文館、2018年)受贈。ありがとうございます。

美濃国大井荘は奈良時代に東大寺が造営された時点からの東大寺領荘園として著名で、その経営は紆余曲折を経ながらも室町時代まで続いた稀有な荘園でした。加えて関連史料も多く遺されており、古代から中世にかけての荘園の推移をみる上で好個の対象としてこれまで多くの研究で取り上げられてきました。ただ、荘園制の議論は近年大きく進展してきたものの、新たな見解に応じた大井荘の再検討はまだ途上であったことから、本書ではその課題への取り組みが一つのテーマとなっています。

しかし、文書の分析に止まるものではなく、「環境歴史学」とあるように、科研調査を通じた現地調査や、近年進化してきたGISなどによる歴史地理における分析技術の活用を通じて、古代から中世にかけての荘域の復元を試みています。

その過程では現地における聞き取り調査や、実見による用水の復元など、分析手法も実に多岐にわたっており、荘園研究の現在を知る上で重要な一冊ではないかと思います。近年では大規模な現地調査に基づく中世史研究は様々な事情がありあまり行われなくなってきましたが、現地を歩くことの重要性を改めて認識させられました。

私がその方面でどこまで貢献できるかはわかりませんが、今後何らかの調査に貢献できる日が来ることを待ちたいと思います。

中世荘園村落の環境歴史学: 東大寺領美濃国大井荘の研究

吉川弘文館
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2019.04.04

【受贈】『古代・中世の地域社会』

大山喬平・三枝暁子編『古代・中世の地域社会―「ムラの戸籍簿」の可能性』(思文閣出版、2018年)を、三枝さんと執筆者のKさんの連名で受贈。ありがとうございます。

これまで数年にわたって、「ムラの戸籍簿」のタイトルで古代から中世にかけて地域社会で作成され継承されてきた史料の網羅的蒐集と分析が行われてきましたが、本書は現時点での集大成となるべきものといえるでしょうか。

本書が注目しているのは「村」や「郷」などの文言が史料上に登場する時期に関する検討で、登場する時期における各地の動向や、時代の変遷による「村」などの内実の変化を追っています。各論考は網羅的な史料蒐集と基礎的な分析で貫かれており、今後の地域社会研究の指針になる一冊という位置づけることができるでしょうか。

個人的には、播磨国宍粟郡の事例を分析した三枝さんの論考に興味を抱きました。というのも、学術的な理由ではなく、父親の出身地だからです(笑)。私のルーツとは関係ありませんが、当地の風景を思い出しながら拝読しました。

古代・中世の地域社会―「ムラの戸籍簿」の可能性―

思文閣出版 (2018-09-20)
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2019.03.19

【受贈】『銀の流通と中国・東南アジア』

先にいただいた本はたくさんあるのですが、先にこちらのご紹介を。


豊岡康史・大橋厚子編『銀の流通と中国・東南アジア』(山川出版社、2019年)受贈。ありがとうございます。テーマはというと、世界史上最大のテーマの一つである「大分岐」、すなわち、長らく世界で覇権を誇ってきた中国が、19世紀半ばになってなぜイギリス・フランス・アメリカなどの欧米列強諸国に取って代わられたのかという問題について、当時の国際通貨かつ中国での事実上の基軸通貨であった銀の流通事情からその背景を探ってみようというものです。加えて、当時の東南アジアについても考察しています。

というわけで、私は直接専門としている時代でも地域もやや異なるため、読破するのはかなり厳しいかと思ったのですが、あに図らんや、面白くて一気に読み通してしまいました。


上記のテーマについて問われると、真っ先に浮かぶ事件が1840年に勃発したアヘン戦争で、今でも教科書に必ず取り上げられるわけですが、アヘン戦争というのは実は中国の凋落の「結果」であって、覇権を失う原因ではないというのが今や共通認識です。中国のアヘン輸入も、確かに貿易赤字を生んでいたものの、中国の社会経済に深刻なダメージを与えるほどではなかったというのが通説?です。

となると、なぜ中国は覇権を失ったのか。もちろん欧米の軍事力、それを下支えする科学技術の蓄積が大きいのですが、経済の側面からその要因を探ってみると、1820年代に始まる中国の不況(年号を取って「道光不況」)に注目が集まっています。そしてこの不況は国際通貨たる銀の流通事情が大きく関わっていました。そこで本書では、当時の銀の流通実態がどのようなもので、それがなぜ中国経済に負の影響を与えたのか、という点で、視点の異なる論者が意見を戦わせています。


本書の出発点となっているのは、林満紅さんによる研究です(同氏の論考は残念ながら本書には未掲載)。それによると、中国で主に流通していた銀貨の供給元であるメキシコが独立する過程で政情が混乱して銀産出が落ち込み、中国への流入減少によって銀貨が高騰したこと(つまりデフレ)によると結論づけました。

ところが、このモデルについては実証面で問題があるとの批判があがりました。本書はその批判を中心に構成しています。
具体的に紹介すると、アレハンドラ・イリゴインさんは、メキシコの銀産出はそれほど減っていないとし、19世紀前半の中国では銀地金よりもスペイン領メキシコで鋳造されていた銀貨カルロス・ドルの方が地金換算で価値が高く流通していたため(つまりプレミアがついていた)、結果としてカルロス・ドルが中国へ流入し、地金の銀が大量に流出した結果、銀不足による高騰によって経済の停滞を招いたとしています。
一方リチャード・フォン・グランさんは、中国の不況はそもそも銀の流出が引き起こしたのではなく、各地で庶民が使用している銅銭の品質低下により価値が暴落し、それが庶民生活の購買力を大きく低下させた影響を重視します。
とまあ見解は三者三様でありまして、本書でも結論を急いでいないのですが、岸本美緒さんがこれらの議論を整理しつつ、実証的なデータを多く提示しながら、それぞれの議論をつなぐ論考を寄せています。(イリゴインさんの説にやや賛同しているように読み取れましたが。)


正しいかどうかはまだ検証が必要でしょうけれども、個人的には、イリゴインさんの指摘が銀流出の要因として考える際に非常に魅力的に映りました(開国直後の日本で銀が大量に流出した話を彷彿とさせる)。

ほかにも興味深い論点がたくさんあったのですが、あまり長くなるのもなんなので、このへんで。いわゆる「グローバル・ヒストリー」の最前線に触れる機会として、専門外の方々にもチャレンジしてほしいと思います。

銀の流通と中国・東南アジア

山川出版社
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2019.03.04

オックスブリッジ営業

Img_4074もう一ヶ月が経とうとしていますが、先月上旬にイギリスへ行って参りました。

実は、元々はいつもの?旅行のつもりだったのですが、ちょうど期間中にオックスフォードで開催される予定の「MEDIEVAL ZOMIAS: STATELESS SPACES IN THE GLOBAL MIDDLE AGES」というワークショップで日本中世史の立場から情報提供をしてほしいとの依頼をいただき、急遽報告をすることになりました。
Zomiaというタームは、日本語では「脱国家」と呼ばれるように、国民国家支配を受けない、あるいはそれを拒否する人々のことで、元々は19世紀後半から20世紀にかけて、中国南西部から東南アジア山間部にかけて分布する人々の動向に注目したものでした。
…といっても、お恥ずかしながら、ドメスティック日本史に浸かった私はまったくの不勉強で、概念を一から勉強するような体たらくでした。日本中世史で類似のネタはないかと色々と考え、山ではないが海なら行けるかもということで、倭寇(前期倭寇)をテーマに喋ることにしました。

当日は私の情けない英語力のせいで散々でしたが、親切なホストや聴衆のみなさんには意図を酌んで下さったようで、安堵しました。このトシではもう絶望的ですが、もう少し英語を磨きたいところです…。


Img_4087その後は、元々予定していたケンブリッジへ。バスで4時間…。現地では旧友が現在滞在しており、期間中はいろんな所へ案内していただくなど、とてもお世話になりました。こじんまりとした街でしたが、楽しく過ごすことができました。

今回は慌ただしい旅程でしたが、またのんびりとイギリス各地をまわってみたいものです。暖かい時期に。

ゾミア―― 脱国家の世界史
ジェームズ・C・スコット
みすず書房
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2019.02.25

【受贈】『明智光秀 残虐と謀略』

橋場日月『明智光秀 残虐と謀略―一級史料で読み解く』(祥伝社新書546、祥伝社、2018年)受贈。ありがとうございます。

明智光秀といえば知らない人はそう多くは無いと思いますが、そうでありながら、前半生がほとんどわからないことでも知られています。そこで過去に来歴が様々に推測されてきたわけですが、確固たる史料があるわけでもないので、それぞれが言いっぱなしな所もありました。
もちろん現時点でも史料が増えたわけではありませんが、本書はなるべく信頼できる史料を用いて、その謎に迫るところから始まります。

明智光秀の伝記となると、高柳光寿氏の人物叢書(吉川弘文館)が知られていますが、今なお有効とはいえ刊行されてからすでに半世紀が過ぎており、アップデートが求められる時期になってきました。また、藤田達生氏による専門書(八木書店)も近年刊行されましたが、こちらは専門性が高く、一般向けとは言えないものです。もちろんそのほか様々な形で伝記として書籍が刊行されてきましたが、ノンフィクションを謳いながら史料に基づくという基本的な手続きを取らないものも多く、どれを読めばよいのか迷うのが現状です。
その点、本書は副題にあるように、なるべく史料に当たって事跡を整理する姿勢で貫かれており、信頼しうる内容だと思います。もちろん史料ではわからないことも多く、そこはなるべく蓋然性の高い推測が交えられており、それらの点では議論になるところかもしれません(特に二次史料の評価については)。とはいえ、一般向けの伝記としてはおすすめできる一冊だと思います。

ちなみに、私個人は、明智光秀の飛躍は織田信長上洛直後の京都掌握でうまく立ち回ったことにあるのではないかと思っていて(それこそ史料的根拠が厳しいのですが(笑))、ここで信長の信頼を勝ち取ったのであろうと思っています。というわけでこの時期を特に注目して拝読しましたが、そのあたりの本書の叙述は参考になりました。

帯の文面はなかなか刺戟的ですが(笑)、内容は堅実ではないかと感じました。

明智光秀 残虐と謀略 一級史料で読み解く (祥伝社新書)
橋場日月
祥伝社
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