「真実」を叫ぶ胡散臭さ
さっきTBS「バチカンに眠る織田信長の夢」を見ました。発売直前の「ウインドウズ・ビスタ」のプロモーションとどっちが主だったのかと首を傾げるような番組構成でしたが(笑)。
ま、それはともかく。
前半は随分慎重だったのに、終盤になって大暴走してましたね(笑)。で、なにが基になったんだろう?と思って番組のHPを見ると、どうも実際に著者が出演していた安部龍太郎『信長燃ゆ』(日本経済新聞社、2001年、のち新潮文庫・2004年)が元ネタだったようです。
HPの「番組の立ち上げ」で図らずも書かれているように、そもそもバチカンに渡った(はずの)狩野永徳の屏風を探求する企画だったはずで、どうもそれがはかばかしくないと見るや、安部氏の小説を援用して結局は「本能寺の黒幕」探しを前面に出す構成を加えたようです。
ってかねえ。「残された暗号を解読せよ」って、どんな暗号をどう解読したのか番組中で出てきたんでしょうか?(笑) さんざん煽っておきながら、そもそも屏風については調査が開始されたばかりであって、見つかりそうな徴候すらない段階でそりゃないでしょ。これって「おおげさ」「まぎらわしい」とかいうやつじゃないんですか?
メインだった安土城の構造については、言うまでもなく内藤昌『復元安土城』(学術文庫1795、講談社、2006年、初出1994年)が参考になりますが、近年では異論もあるようです。もっとも、内藤説が今のところ有力とは言えますが。
で、問題の近衛前久黒幕説ですが…。「捏造」とは言わないまでも、おいおいそりゃねーよとは言いたくなりますよねえ。
本能寺の変については桐野作人『真説本能寺』(M文庫、学習研究社、2001年)や、先鋭的な批判についてかつて触れた鈴木眞哉・藤本正行『信長は謀略で殺されたのか-本能寺の変・謀略説を嗤う』(新書y149、洋泉社、2006年)が詳しいのですが、近衛黒幕説はかつて朝尾直弘さんも示唆したことがあるそうで、以来、実は結構古くから可能性が議論されていた説ではあります。
まあ、その「可能性」がゼロとは言いません…が、現在においては信憑性を疑わせる事実が既に数多く列挙されているわけで、それについてまったく触れないのは、テレビ番組とはいえ(だからこそ?)、フェアな姿勢とは言えないんじゃないでしょうか。
最後は織田信雄が狂乱して火を付けたかのように描いたり、本能寺の変に幽斎や秀吉まで荷担したかのような描き方で、すさまじい迷走っぷりでした。私は読んでないんですが、安部氏の小説もそういうストーリーなんでしょうか…?
科学的根拠に明確に反し、社会的影響の大きさで問題視された某番組の例を持ち出すのは、酷かもしれません。しかし、ある学説を一方的に「真実」と思わせる形で語り、それに対して既に提出されている疑問・批判に対して黙殺するような制作姿勢は、やはり偏っていると言わざるを得ません。
小難しい話にしたくはないというのもわかりますが、それならばそれなりに伝え方を工夫すべきなのであって、「わかりやすさ」が偏りに繋がるのは、そもそも制作能力に対する疑いを持たざるを得ず、近年の報道の在り方が取り沙汰される状況にあっては重大な問題であると言えるでしょう。
今回の番組は結構詳しく調べているようではあったので、かえってその辺が残念でした。
普段ならこんなことは書かないのですが(笑)、最近の某騒動を見るにつけ、やっぱこういうのってちゃんと発信した方がよいのではないかという気もしたもんで。
なお、ご批判はいつでも受け付けます(笑)。
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コメント
そう簡単に安土城屏風図が出てくるはずはない、と思っていましたが、案の定(笑)。
それにしても宣教師が黒幕にいたかのように匂わせておきながら、最後の想像(捏造?)再現VTRでは、近衛前久一辺倒だったのは、論証うんぬん以前に番組構成として破綻している気がします。宣教師はどこに行ったの?
しかし、TVで近衛前久がここまで前面に出てきたのは初めてじゃないですかね? 前久にしてみれば、こんな形で後世の人間から注目を浴びるのは不本意だったかもしれませんが(爆)
投稿: 御座候 | 2007.01.30 11:28
>御座候さん
ご覧になりましたか。
確かに、どうせなら「イエズス会陰謀説」で通した方が、番組としてはまだ筋が通っていたとは思いますねえ。
近衛前久自身は、当時の政治情勢を考える上で確かに興味深い人ではありますが、衆目が誤解から出発してしまうと、その払拭はちょっと大変かもしれませんね(笑)。
投稿: かわと | 2007.01.31 14:47