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2007.11.05

博士もつらいよ

水月昭道『高学歴ワーキングプア―「フリーター生産工場」としての大学院』(新書322、光文社、2007年)読了。先月発売でしたが、私が買ったのはもう3刷。結構売れているようですね。
いくつか書評をしているブログを拝読しましたが、書いている人は院生が多いみたいですね。やはり、「業界人」の興味を引いているようで(笑)。

それらのブログでは既に書かれている通り、いずれも事実としていかにもありそうだとは思えるので、そういう点ではリアリティがあるものの、悲惨な事例と業界脱出の成功例がどちらも事例としては極端で、そこから一般化するのはやや強引な気がしました。あと気になるのは、前半はその実態が「生々しく」描かれているものの、終盤はなぜか教育論一般に軸足がシフトしている感じがして、コンセプトとしてはもう一つ一貫性に欠けている感もあります。

本書の目的は、あまり目が向いていない大学院(またはポスドク)の実情を大衆にアピールするという点にあり、その点において今後の反響は期待されるところです。しかし、構造的分析になると、やや物足りない。大学院重点化の「犯人捜し」も興味深いですが、ポスドクの進路が問題化している現在的な問題にもっと目を向けた形での、冷徹なデータ分析があってもよかったのではないでしょうか。これも既に言われている所ですが、大学院修了後「行方不明」が10%にもなることについて、そのまま進退窮まった人の割合として鵜呑みにするのは、少し強引だと思います。この辺は、調査の正確性を吟味すべきだったでしょう。

あと、重点化によって教員が進学を薦めたことを指弾していますが、少なくとも私は、大学院進学を薦められたことは一度もありません。「やめた方がいい」というのは結構言われましたが(笑)。

…と批判ばかりするのもなんなので(笑)、一つ本書の重要な指摘を。院生に対しては、その養成に際して多くの公費が投入されている、という点です。つまり、形としては(国民が知ってか知らずか)、大学院における研究者養成には社会的投資がかなりの規模でなされており、そうして生み出された修士・博士が、その専門的素養を活かせないで居るというのは、結果として社会全体で莫大な経済的損失を生み出しているということです。

「そんな助成は打ち切ってしまえ」となるか、「その投資が損失とならないよう対策を講じるべきだ」となるかは、今後の日本の学術政策において大きな選択になるかもしれません。少なくともそこへの議論を喚起する可能性を持った一冊になるかも…とは思いました。もっとも、読者層が「業界人」に露骨に偏っていると、効果は見込めませんが(笑)。「業界」の外にどれだけ読者が広がるかが見物です。

大学院の問題は、国会でもほとんど話題にならないんですよねぇ…。ほかに比べると緊急性が低いということになると、そうかもしれませんが、文科省もあまり触れたくはないんでしょうね。

4334034233高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)
水月 昭道
光文社 2007-10-16

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コメント

報告拝聴しましたが・・研究史整理?ですか?
何か新しいお話があるのかと思ったのですが残念でした。

>土曜日さん
ご感想ありがとうございます。
ご期待にそえず、すみません。

なかなか身につまされる話ですね(^^;)

事は大学院重点化に留まらず、より根本的な問題としては、大学進学率の上昇に乗っかる形で大学が無計画に拡張され新設されていったことにあると思っています(そして文部省もそれを推進した)。18歳人口減少の影響で多くの大学が定員割れ・経営難になっている状況では、ボスドクに行き場がないのは理の当然ですよね。

大学とは何か、何のために存在しているのか。その社会的意義が改めて問われていると思います。産学連携や専門職養成とは縁がない人文系学部は特に。

 この本をかわとさんが読んだら、どう思われるかな。このように思いながら立ち読みしてましたけど、もう読まれたんですね。

 この問題に関しては、目下職場の同僚に「大学院とはこういう所なんだよ。」と“布教中”なので、本書の意図せんとしている所はよく分かります。

 でも、一部の人の中には大学院を「お金持ちが行く所」と捉えています。また、研究に至っては「お金を貰ってすること」であり、大学院生の行う研究は「趣味」以外の何物でもないと考えてます。つまりは、研究は医薬品を中心とする企業でするものというイメージが強く存在しています。

 だから、「ワーキングプアになってる博士を何とかしよう」と言う以前に、初歩中の初歩である「大学院とは何か」、「研究とは何か」を広く社会に対してアピールした方が良いのではないかとおもいます(私の20代は、これを巡って親と喧嘩ばかりしてました…。)

 私としては、筆者は水月氏には社会人経験があるのだから、「社会と大学院の接点」に関する本を著し、社会と大学院の架け橋になってもらえたら。このように感じました。

 でも、もしかわとさんがお書きになるとしたなら、どんな感じになるでしょうね。

 

>御座候さん
私らの「就職口」に限っていえば、教養課程の原則廃止がかなり響いている感がありますね。

科研費絡みのアンケートで、基礎科学の軽視を問題視する意見が多かった、という記事が先日ありました。その辺へのケアができる懐の広さが、政府にあるかどうか。

>たけうちさん
実際経済的負担が大きいので、それを理由に断念する人も少なくないですよね。なんだか東大は来年度からタダにするそうですけど、こりゃまた思い切ったもんです。

研究が「趣味」にしか見えない、という意識が強いということがあるのは残念ですが、こちら側からのアピールの方法も考えないといけないんでしょうねぇ。以前にも触れましたが、そういう意味での「歴史家」が出てくるといいんですが。

私が書くと…、おそろしくつまらないものになると思います(笑)。

かわとさん

>私が書くと…、おそろしくつまらないものになる>と思います(笑)。

学部時代からかれこれ10年近くお付き合いさせてもらってますけど、私は尊敬の眼差しで見てますよ。仕事と研究を見事に両立させ、なおかつ史華堂を中心に中世を中心に「歴史とは何か」を分かりやすく解説している。

今、日本は上も下も「生涯学習社会」を標榜し、なかんずく歴史に対する需要は大きい。加来氏のようにメディア露出するのも一つの手とは思いますけど、私としてはかわとさんのようにもっと専門家と門外漢の間に立って、両者の橋渡しをする人が出ても良いのではないかと思います。

ひょっとしたら、将来的にかわとさん、桑田忠親先生や高柳光寿先生みたいになられるかも分かりませんよ(笑)…って、褒めすぎですか?(爆)

>たけうちさん
いやぁ、買い被りすぎだと思います(笑)。
「歴史とは何か」。わかったように書いているかもしれませんが、私は未だ明確な答えを得てはいません。これからも答えが見つかることはないと思いますが、見つけようという努力はしたいですね。

既に社会には、「橋渡し」役の方々は少なからずいらっしゃると思います。私がそこに寄与できるかどうかはわかりませんが、そういう仕事ができるようになるといいですね。ただ、今はまだまだ未熟ですんで…。

>東大は来年度からタダ

遅いっつーの。もっと早くからやってほしかった(爆)

>御座候さん
すっかり割を食いましたね(笑)。

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