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2018年12月

2018.12.16

【受贈】『中世の荘園経営と惣村』

似鳥雄一『中世の荘園経営と惣村』(吉川弘文館、2018年)受贈。ありがとうございます。

中世荘園制に正面から取り組んだ重厚な論考。かつての中世史研究の花形とも言える分野ですが、近年ではめっきり研究が少なくなっています。本書はそのような研究状況に一石を投じる成果と言えるでしょうか。

本書の分析対象となっているのは、主に備中国新見荘、紀伊国鞆淵荘、そして近江国菅浦と、かつて研究が盛んだった時代にも頻繁に取り上げられたフィールドです。史料の残存状況に制約を受ける分野である以上、それは仕方の無いところでしょう。
とはいえ、研究手法はかつてのものと同じではありません。関連史料の徹底的な読解という基本的な作業は当然ながら変わりませんが、現地調査の調査手法は技術革新によって大きく変わっています。現地での聞き取り調査等をベースとしつつ、当地の地形や水利、田畑の分布状況などをGPSなどの技術を用いて検証が加えられます。荘園調査においてこのようなIT関連の技術を応用する作業はまだ確立の途上といえますが(関連するほかの近著をいただいていますが、その紹介はまた改めて)、現段階における活用事例として今後の研究に大きく寄与することとなるだろうと感じました。

さて、新稿のうち、永禄9年(1566)に発布された浅井氏の撰銭令に言及している第二部第四章について感想を一言。
本章では、菅浦が「自検断」を達成した惣村と評価されてきた点について、「自検断」と記した史料が一点しかないことに注目し、当該史料が発せられた背景を検討しています。その結果、「自検断」の呼称は「私検断」を否定する浅井氏の撰銭令に対抗したもので、菅浦でこの撰銭令を破って商業トラブルの「自検断」を行った住人を浅井氏に密告した別の住人に対して、「自検断」の論理を標榜して村が密告者を排除しようとしたものと位置づけています。
その評価には踏み込みませんが、やはり気になるのは、「自検断」の論理を持ち出した背景に上記撰銭令の関与を推測した点です。それを裏付ける史料がないので、必ずしも実証が果たされたわけではないように読み取りました。今後の関連史料の新発見は見込めそうにないので、著者の論理が説得力を持ちうるかどうかにかかっていますが、これからどのような評価が与えられるかを見守っていきたいと思います。(参戦するつもりはない(笑))

中世の荘園経営と惣村
似鳥 雄一
吉川弘文館
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