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2019年3月

2019.03.19

【受贈】『銀の流通と中国・東南アジア』

先にいただいた本はたくさんあるのですが、先にこちらのご紹介を。

 

 

豊岡康史・大橋厚子編『銀の流通と中国・東南アジア』(山川出版社、2019年)受贈。ありがとうございます。テーマはというと、世界史上最大のテーマの一つである「大分岐」、すなわち、長らく世界で覇権を誇ってきた中国が、19世紀半ばになってなぜイギリス・フランス・アメリカなどの欧米列強諸国に取って代わられたのかという問題について、当時の国際通貨かつ中国での事実上の基軸通貨であった銀の流通事情からその背景を探ってみようというものです。加えて、当時の東南アジアについても考察しています。

 

というわけで、私は直接専門としている時代でも地域もやや異なるため、読破するのはかなり厳しいかと思ったのですが、あに図らんや、面白くて一気に読み通してしまいました。

 

 

上記のテーマについて問われると、真っ先に浮かぶ事件が1840年に勃発したアヘン戦争で、今でも教科書に必ず取り上げられるわけですが、アヘン戦争というのは実は中国の凋落の「結果」であって、覇権を失う原因ではないというのが今や共通認識です。中国のアヘン輸入も、確かに貿易赤字を生んでいたものの、中国の社会経済に深刻なダメージを与えるほどではなかったというのが通説?です。

 

となると、なぜ中国は覇権を失ったのか。もちろん欧米の軍事力、それを下支えする科学技術の蓄積が大きいのですが、経済の側面からその要因を探ってみると、1820年代に始まる中国の不況(年号を取って「道光不況」)に注目が集まっています。そしてこの不況は国際通貨たる銀の流通事情が大きく関わっていました。そこで本書では、当時の銀の流通実態がどのようなもので、それがなぜ中国経済に負の影響を与えたのか、という点で、視点の異なる論者が意見を戦わせています。

 

 

本書の出発点となっているのは、林満紅さんによる研究です(同氏の論考は残念ながら本書には未掲載)。それによると、中国で主に流通していた銀貨の供給元であるメキシコが独立する過程で政情が混乱して銀産出が落ち込み、中国への流入減少によって銀貨が高騰したこと(つまりデフレ)によると結論づけました。

 

ところが、このモデルについては実証面で問題があるとの批判があがりました。本書はその批判を中心に構成しています。
具体的に紹介すると、アレハンドラ・イリゴインさんは、メキシコの銀産出はそれほど減っていないとし、19世紀前半の中国では銀地金よりもスペイン領メキシコで鋳造されていた銀貨カルロス・ドルの方が地金換算で価値が高く流通していたため(つまりプレミアがついていた)、結果としてカルロス・ドルが中国へ流入し、地金の銀が大量に流出した結果、銀不足による高騰によって経済の停滞を招いたとしています。

 

一方リチャード・フォン・グランさんは、中国の不況はそもそも銀の流出が引き起こしたのではなく、各地で庶民が使用している銅銭の品質低下により価値が暴落し、それが庶民生活の購買力を大きく低下させた影響を重視します。
とまあ見解は三者三様でありまして、本書でも結論を急いでいないのですが、岸本美緒さんがこれらの議論を整理しつつ、実証的なデータを多く提示しながら、それぞれの議論をつなぐ論考を寄せています。(イリゴインさんの説にやや賛同しているように読み取れましたが。)

 

 

正しいかどうかはまだ検証が必要でしょうけれども、個人的には、イリゴインさんの指摘が銀流出の要因として考える際に非常に魅力的に映りました(開国直後の日本で銀が大量に流出した話を彷彿とさせる)【追記:正しくは開国後の日本では金が流出したので、誤りでした。撤回いたします。】。
ほかにも興味深い論点がたくさんあったのですが、あまり長くなるのもなんなので、このへんで。いわゆる「グローバル・ヒストリー」の最前線に触れる機会として、専門外の方々にもチャレンジしてほしいと思います。

 

銀の流通と中国・東南アジア

山川出版社
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2019.03.04

オックスブリッジ営業

Img_4074もう一ヶ月が経とうとしていますが、先月上旬にイギリスへ行って参りました。

実は、元々はいつもの?旅行のつもりだったのですが、ちょうど期間中にオックスフォードで開催される予定の「MEDIEVAL ZOMIAS: STATELESS SPACES IN THE GLOBAL MIDDLE AGES」というワークショップで日本中世史の立場から情報提供をしてほしいとの依頼をいただき、急遽報告をすることになりました。
Zomiaというタームは、日本語では「脱国家」と呼ばれるように、国民国家支配を受けない、あるいはそれを拒否する人々のことで、元々は19世紀後半から20世紀にかけて、中国南西部から東南アジア山間部にかけて分布する人々の動向に注目したものでした。
…といっても、お恥ずかしながら、ドメスティック日本史に浸かった私はまったくの不勉強で、概念を一から勉強するような体たらくでした。日本中世史で類似のネタはないかと色々と考え、山ではないが海なら行けるかもということで、倭寇(前期倭寇)をテーマに喋ることにしました。

当日は私の情けない英語力のせいで散々でしたが、親切なホストや聴衆のみなさんには意図を酌んで下さったようで、安堵しました。このトシではもう絶望的ですが、もう少し英語を磨きたいところです…。


Img_4087その後は、元々予定していたケンブリッジへ。バスで4時間…。現地では旧友が現在滞在しており、期間中はいろんな所へ案内していただくなど、とてもお世話になりました。こじんまりとした街でしたが、楽しく過ごすことができました。

今回は慌ただしい旅程でしたが、またのんびりとイギリス各地をまわってみたいものです。暖かい時期に。

ゾミア―― 脱国家の世界史
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